PHP新書 / PHP研究所 2025

美しく残酷なヒトの本性 The Beautiful & Cruel Nature of Humans — Mariko Hasegawa, 2025

長谷川 眞理子はせがわ・まりこ/進化生物学者・静岡県立大学長

人間の遺伝子は、
利己的か? 利他的か? ― 単行本 帯コピー

遺伝子、言語、自意識 ── 3つの謎から「人間の正体」に迫る。行動生態学・自然人類学の第一人者で静岡県立大学長の長谷川眞理子が、ドーキンス『利己的な遺伝子』の誤解、チンパンジーの言語能力、魚の自意識まで、人類200万年の進化史と最新研究をもとに読み解くPHP新書235ページ。

新書判/235ページ 2025年6月13日発売 1,155円(税込) PHP新書 / PHP研究所

長谷川眞理子『美しく残酷なヒトの本性 ─ 遺伝子、言語、自意識の謎に迫る』(PHP新書・2025年6月) 書影

ヒトは美しくもあり、
また残酷な生き物だ。

― 本書 内容紹介より(著者: 長谷川眞理子/PHP研究所 公式書籍紹介)

本書が手渡してくれる、三つの謎

タイトルが「謎に迫る」と銘打つとおり、本書は遺伝子・言語・自意識という、進化生物学が長く取り組み、いまも更新が続いている3つの大問題を、235ページの新書で串刺しにする。

遺伝子 ── ヒトは利己的なのか、利他的なのか

赤子は利他的にふるまうのに、なぜ大人になるにつれて利己的になってしまうのか。ドーキンスの『利己的な遺伝子』はそもそもどう誤解されてきたのか。「人の能力を決めるのは遺伝か環境か」という問いはなぜ不毛なのか。第3章・第4章で本書の中心となる論点。

言語 ── チンパンジーは言葉の意味を理解できるのか

ヒトの言語はどこからきて、どこまでがヒト固有の能力なのか。チンパンジーにヒトのような言語能力はあるのか、ないのか。本書はこの問いに「ない」と明確に答える。著者自身が長年フィールドで観察してきたチンパンジー研究の蓄積に基づく主張。

自意識 ── 魚にも自意識はあるのか

「自分」を自分として認知する能力は、ヒトや一部の霊長類だけのものなのか。本書は近年の動物行動学の最新研究を引きつつ、「魚にも自意識がある!?」という挑発的な問いに進化生物学の視点で答える。第2章で「ヒトに固有の特徴とは何か」を切り出す導線にもなる。


なぜ、いま『美しく残酷なヒトの本性』なのか

「ヒトの本性」を語る本は数あるが、本書の固有性は「進化生物学者本人が、最新研究と学長として届けたい啓発のあいだに置いた一冊」であることにある。

進化生物学・行動生態学の第一人者本人による、最新研究を踏まえた人間論

著者・長谷川眞理子氏は、東京大学・専修大学・早稲田大学・総合研究大学院大学を経て2023年4月より静岡県立大学 第8代学長。アフリカでチンパンジーやアフリカヒメウシなどを長年フィールド研究してきた行動生態学・自然人類学の第一人者である。本書は、研究者としての半世紀の蓄積と、教育者・大学長として一般読者に手渡したい知見を、新書という形式に圧縮した一冊。

「利己的か、利他的か」 ── ドーキンス以来の定型問題に、現役研究者が決着をつける

『利己的な遺伝子』(リチャード・ドーキンス)が日本でも広く読まれるようになって40年以上、いまだに「結局ヒトは利己的なのか利他的なのか」という議論は素朴な水準で繰り返されている。本書は「ドーキンスは誤解されている」と明言した上で、進化生物学の現在地から「ヒトは本来 利他的な生き物」というテーゼを示す。教養としての進化論を読み直す入口に最適。

「現代病」── 潔癖・肥満・運動不足を進化生物学から読み解く第5章

進化人類学の重要な論点のひとつに「環境とのミスマッチ仮説」がある ── 200万年の進化のなかで形作られたヒトの身体と、現代の生活環境がズレることで「現代病」が生まれる、という見方。本書第5章はこの観点を、潔癖・肥満・運動不足という日常の話題に着地させて解説する。健康・ウェルビーイング系の自己啓発書とは違う「進化生物学からの根拠」が手に入る。

1,155円・新書235頁 ── 通勤バッグに入る進化生物学の入門書

本格的な進化生物学・人類学のテキストは数千円〜の単行本が多いなか、本書はPHP新書の新書判(105×176mm)で1,155円(税込)・235ページに収まる。著者の他の代表作『進化的人間考』(東京大学出版会)『生き物をめぐる4つの「なぜ」』(集英社新書)などへの読書地図のスタート地点として最も心理的・経済的なハードルが低い一冊。新書という形式で、しかも一線の研究者本人が書いた進化生物学読み物として、いま最も気軽に手に取れる選択肢。


本書を読むための、進化生物学のキーワード

利他性・包括適応度・ミスマッチ仮説 ── 進化生物学が日常語に翻訳される瞬間に立ち会う前に、用語の輪郭をつかんでおく。

Concept 01

利他行動(Altruism)

自分の利益を犠牲にして他者に利益をもたらす行動。ヒトの赤ちゃんが見せる助けの行動から、社会性昆虫の自己犠牲まで広がる。本書はこれを単なる道徳ではなく、進化のなかで合理的に成立する戦略として論じる。

Concept 02

利己的な遺伝子(The Selfish Gene)

リチャード・ドーキンスが1976年に提唱した進化観のキーフレーズ。「個体ではなく遺伝子の視点で進化を見る」というメタファーだが、ヒト個人の利己性を肯定する書ではない。本書はこの「誤解」を解くことから出発する。

Concept 03

包括適応度(Inclusive Fitness)

ハミルトンが提唱した、自分の遺伝子だけでなく血縁者の遺伝子の繁殖貢献も含めた適応度の概念。「なぜ親は子に犠牲を払うのか」「なぜ姉妹間に協力が成立しやすいのか」といった利他性の進化を理解する基本枠組み。

Concept 04

遺伝か環境か(Nature vs Nurture)

能力・性格・行動を決めるのは遺伝なのか環境なのか、という古典的論争。本書第3章はこの二分法そのものを「不毛」と切って捨て、現代の進化生物学・行動遺伝学が到達している新しい見方(両者の相互作用)を提示する。

Concept 05

環境ミスマッチ仮説

200万年の進化のなかでヒトは狩猟採集環境に適応した身体・心理を獲得したが、現代の環境はそこから大きくズレている。このズレが「現代病」 ── 潔癖・肥満・運動不足・うつ ── を生むとする仮説。本書第5章の核となる視点。

Concept 06

自己認識(Self-Awareness)

鏡に映った自分を「自分」と認識する鏡像認知などで測られる、自己を自己として知る能力。チンパンジー・イルカ・ゾウのほか、近年は魚類(ホンソメワケベラ)でも肯定的な実験結果が報告され、議論が続いているテーマ。


章構成と各章の射程

出版社公式書籍紹介ページに記載された目次を、各章の射程付きで整理した。第1章で進化生物学の基本枠組みを敷き、第2章でヒト固有性、第3章〜第4章で「遺伝子と利他性」、第5章で「現代病」、第6章で「ヒトを育てる」という流れ。

第1章

生き物の世界進化生物学・行動生態学の基本枠組みを概観/自然選択・性選択・適応の入口

第2章

ヒトに固有の特徴は何か言語・自意識・道徳感情など、ヒトが他の動物とどこで分岐するかを、チンパンジー・魚類研究を引きつつ整理

第3章

「遺伝か環境か」論争の不毛古典的二分法を、現代の行動遺伝学・進化生物学から書き換える

第4章

ヒトは本来「利他的」なのになぜ争うのか利他性の進化的根拠と、それでもヒトが争いを止められない構造的理由

第5章

「現代病」に陥る人類潔癖・肥満・運動不足など、進化と現代環境のミスマッチから生じる現代病を読み解く

第6章

ヒトを育てる、人を育てる育児・教育を、進化生物学と人類学の観点から問い直す。著者の大学長としての教育観も色濃く反映

出典: PHP研究所 公式書籍紹介ページ「美しく残酷なヒトの本性」(2025年6月13日発売・著者: 長谷川眞理子)。各章の射程は公式紹介と本書「要点」(出版社掲載)の文言を要約したもの。


読んでみた感想

サイト運営者による、一読者としての記録。書評ではなく、読後に残った感触を書き留めたもの。

新書判235ページ・1,155円。装丁を初めて手に取ったとき、最初に意外だったのはタイトルではなく書影の構成だった。クリムゾン色のテクスチャ背景に白のタイトルが大きく置かれ、下半分には人間の頭蓋骨と上半身の骨格写真が、ほとんど解剖標本のように剥き出しで配置されている。「美しく残酷な」という形容詞は、装丁レベルでもう実装されているわけだ。中身も、最初の数ページから「ヒトは美しくもあり、また残酷な生き物だ」という静かな宣言から始まり、進化生物学者の半世紀分の臨床がそこに凝縮された一冊だと知れる。

読み進めて最も刺さったのは、第3章の「『遺伝か環境か』論争の不毛」だった。私たちは「能力は遺伝で決まる」「いや環境だ」という二項対立を、20世紀から疲れもせずに繰り返してきた。本書はそれを「不毛」と一言で切り捨て、現代の行動遺伝学・進化生物学が到達している「両者は分けられない」という地点に読者を素早く連れていく。何より響いたのは、著者が「不毛」と言うときの含意で ── 単に学問的に古いというだけでなく、教育・育児・社会政策をその二分法で運用してしまうことの社会的なコストへの怒りが、行間からはっきり伝わってくる。これは大学長として教育の現場にいる人の言い方だな、と感じた。

具体として一番残ったのは、第5章で扱われる「潔癖・肥満・運動不足」を進化と環境のミスマッチで読み解く議論だった。健康・ウェルビーイング系の本ではこの3つは「自己管理の問題」として処理されがちだ。だが本書は、200万年スケールで形作られたヒトの身体が、たかだかこの100年の食料・衛生・運動環境にまだ追いついていない、という地球時間スケールでこれらを読み直す。自分の不健康を自己責任の枠から少しだけ外してくれる、進化生物学の小さな贈り物のような章だった。

本書を貫いているのは、「ヒトを善悪の道徳で裁かず、進化のスケールで観察する」という研究者としての姿勢である。利他性も利己性も、神聖視も悪魔視もしない。「ヒトは本来 利他的だが、争いも止められない」── この一見矛盾する両方を、淡々と並べて見せる。読み終わったあとに残ったのは、答えではなく、人間という生き物への観察の解像度の高さだった。

正直に書くと、新書という形式で6章235ページは少しタイトで、論点ごとに「もう少し具体例が読みたい」と感じる箇所がある。とくに第2章「ヒトに固有の特徴は何か」のチンパンジー・魚類の話題は、それぞれが本来1冊の本になり得るテーマで、新書1章にまとめるとスナップショット的になりがちだ。ここで興味を持った読者は、著者の前著『生き物をめぐる4つの「なぜ」』(集英社新書)や『進化的人間考』(東京大学出版会)に進む読書地図が必要になる。本書はその意味で「入口の一冊」として機能する。

ドーキンス『利己的な遺伝子』『盲目の時計職人』を学生時代にかじって以来、進化論を読み返していなかった人へ ── 本書は40年ぶりの「現在地リフレッシュ」として最適。さらに、子どもの教育に「遺伝か環境か」の二分法で苦しんだことのある親、健康・ダイエット系の自己啓発に疲れた人、そして「ヒトの本性」というあいまいな概念を、進化生物学の解像度でもう一度言葉にしたい人へ。新書1冊・1,155円・通勤バッグサイズ ── このコストで現役大学長・進化生物学者の知見が手に入るのは、新書という形式の最良の使われ方の一例だと思った。

― nia-project / 2026年5月 通読


著者・長谷川眞理子 プロフィール写真(静岡新聞アットエス/共同通信配信)

著者 長谷川 眞理子

はせがわ・まりこ

1952年、東京都生まれ。東京大学理学部生物学科人類学課程卒業、同大学院理学系研究科博士課程修了。理学博士。専修大学法学部教授、早稲田大学政治経済学部教授、総合研究大学院大学(総研大)先導科学研究科 教授・第6代学長を歴任し、2023年4月より静岡県立大学 第8代学長(出典: PHP研究所 公式書籍紹介ページ/静岡県公立大学法人 静岡県立大学 公開情報)。

専門は行動生態学・自然人類学・進化生物学。アフリカ・タンザニアでチンパンジーやアフリカヒメウシなどの大型哺乳類の野外行動研究を長年にわたって行ってきた、フィールドワーク派の進化生物学者として知られる。日本動物行動学会賞・学術賞ほか受賞歴多数。

主な著書に『生き物をめぐる4つの「なぜ」』(集英社新書/本書帯記載の代表作)、『進化的人間考』(東京大学出版会)、『男と女の進化論』(新潮選書)、『私が進化生物学者になった理由』(岩波現代文庫)、『動物の生き残り術』(岩波ジュニア新書) など多数。夫は東京大学名誉教授・長谷川寿一氏(進化心理学)。

本書『美しく残酷なヒトの本性』は、半世紀にわたる行動生態学者としてのフィールドの蓄積と、総研大・静岡県立大学の学長として一般読者・若い世代に手渡したい教養を、新書1冊に圧縮した「入口の進化生物学」の一冊である。


こんな方に読んでほしい

リチャード・ドーキンス『利己的な遺伝子』『盲目の時計職人』を学生時代にかじって以来、進化論をアップデートできていない大人読者へ。本書はその「現在地リフレッシュ」として最適な新書1冊。

「ヒトは利己的か、利他的か」「能力は遺伝か、環境か」という素朴な二分法に違和感を覚えてきた人へ。進化生物学の現役第一人者が、「なぜそれが不毛なのか」を新書のサイズで明確に言語化してくれる。

子どもの教育・育児に向き合っている保護者・先生へ。第3章「『遺伝か環境か』論争の不毛」と第6章「ヒトを育てる、人を育てる」は、教育観そのものを更新する読書になる。

健康・ダイエット系の自己啓発書に疲れた人へ。第5章「『現代病』に陥る人類」は、潔癖・肥満・運動不足を「自己責任」ではなく「進化と環境のミスマッチ」から読み解いてくれる。


購入する

2025年6月13日発売のPHP新書・新書判。Amazon(紙/Kindle)・楽天ブックス(紙)・楽天Kobo(電子)の4形態すべてが配信中。

Amazon Kindle

電子書籍(Kindle版)

電子版(価格は販売ページ参照)

Kindle版で購入する

即時配信/読み放題対象は要確認

楽天Kobo

電子書籍(Kobo版)

1,000円(税込)

楽天Koboで購入する

楽天ポイント対応/即時ダウンロード

本書は2025年6月発売のPHP新書(新書判235頁)です。新書サイズ(105×176mm)で通勤バッグに入りやすく、移動中の読書にも向きます。電子で即時に読みたい方はAmazon Kindle版・楽天Kobo版が便利で、出先でもすぐ読み始められます。価格・在庫・配信状況は変動する可能性があります(2026年5月時点での情報です)。


よくある質問

本書はどんな本ですか?専門書ですか、新書の入門書ですか?

PHP新書(PHP研究所/2025年6月13日発売/新書判235ページ/1,155円・税込)の一般読者向けの進化生物学・人類学読み物です。著者は行動生態学・自然人類学の第一人者で静岡県立大学長・長谷川眞理子氏。「ヒトは美しくもあり、また残酷な生き物だ」「赤子のときは利他的なのに、なぜ大人になると利己的になるのか」といった素朴な問いから、遺伝子・言語・自意識という3つの謎を進化生物学の知見で読み解く構成です。専門用語は最小限に抑えられ、新書サイズで気軽に持ち運べます。

前作の長谷川政美『進化生物学者、身近な生きものの起源をたどる』の著者と同じ人ですか?

いいえ、別人物です。本書の著者は長谷川「眞理子」(まりこ/Hasegawa Mariko)で、行動生態学・自然人類学者・静岡県立大学長(2023年4月就任)。長谷川「政美」(まさみ/Hasegawa Masami)氏は分子系統学・統計遺伝学者・統計数理研究所名誉教授で、HKYモデルの共同提案者として知られます。姓・苗字が同じで、両名とも進化生物学の第一人者ですが、研究分野(行動生態 vs 分子系統)・所属・経歴がまったく異なる別の研究者です。当サイトでは両者の書籍を別ページで扱っています。

Kindle版・楽天Kobo版はありますか?

はい、両方配信されています。Amazon Kindle版(ASIN: B0FCDCKZWM)・楽天Kobo版(楽天Kobo電子書籍ストア/1,000円)とも当ページのCTAから購入できます。紙書籍はPHP新書の新書判(105×176mm)・235ページ(1,155円・税込)で、Amazon・楽天ブックスの両方から購入できます。新書サイズは通勤・通学カバンに入る大きさで、移動中の読書にも向きます。

著者・長谷川眞理子さんはどんな研究者ですか?

1952年東京都生まれ。東京大学理学部生物学科人類学課程卒業、同大学院修了。理学博士。専修大学・早稲田大学・総合研究大学院大学(総研大)で教授・学長を歴任し、2023年4月より静岡県立大学 第8代学長。専門は行動生態学・自然人類学・進化生物学。アフリカでチンパンジーやアフリカヒメウシなどの野外行動研究を行ってきた経歴で知られます。代表作に『生き物をめぐる4つの「なぜ」』(集英社新書)・『進化的人間考』(東京大学出版会)・『男と女の進化論』(新潮選書)・『私が進化生物学者になった理由』(岩波現代文庫)など多数。夫は東京大学名誉教授・長谷川寿一氏(進化心理学)。

どこで購入するのがおすすめですか?

当ページのCTAから Amazon(紙/Kindle)・楽天ブックス(紙)・楽天Kobo(電子) で購入できます。2025年6月発売の新刊PHP新書のため書店店頭でも在庫が安定しており、PHP研究所公式サイトからも購入可能です。電子で即時に読みたい場合はKindle版・Kobo版が便利で、出先でもすぐ読み始められます。新書サイズで持ち運びやすいため、紙書籍を通勤バッグに入れる読書習慣にも向きます。

遺伝子、言語、自意識の謎へ。
進化生物学の第一人者が読み解く「人間の正体」。

行動生態学・自然人類学者で静岡県立大学長・長谷川眞理子による、PHP新書235ページ・1,155円。
新書サイズの「入口の進化生物学」を、通勤バッグに1冊。