「存在する」とは、どういうことか
古代ギリシャから引き継がれた問い「存在とは何か」を、ハイデガーは問い方そのものから刷新した。私たちが日常で何かを「ある」と感じるとは、いったい何が起きているのか。
NHK100分de名著 / 2022年4月号
二十世紀最大の哲学書。
「存在」への洞察が、
「責任」を照らしだす。 ― 本書 表紙コピー
古代ギリシャ以来の問い「存在とは何か」を刷新し、20世紀以降の哲学を決定づけたハイデガー『存在と時間』。難解で名高い未完の大著を、専門用語を最小限にして「一人ひとりの生き方」から解きほぐす全4回・100分の入門。講師は『生きることは頼ること』『責任と物語』の戸谷洋志。
世間の空気に流されず、
― 本書 内容紹介より
自らの良心と向き合って生きる決意をもつことで、
本来的な自分として生きること。
難解な大著の核心を、本書は「一人ひとりの生き方」という補助線で照らし直す。読み進めるうちに自分の足元へ問いが返ってくる。
古代ギリシャから引き継がれた問い「存在とは何か」を、ハイデガーは問い方そのものから刷新した。私たちが日常で何かを「ある」と感じるとは、いったい何が起きているのか。
「世人(das Man)」、頽落、不安、死への先駆。ハイデガーが描く現存在(Dasein)の構造を辿ることで、SNS時代の「空気」と「本来性」がつながって見えてくる。
ハイデガーの政治的選択は、後世に倫理学的な宿題を残した。教え子ハンナ・アーレントとハンス・ヨナスは、師をどう批判的に読み直したのか。「他者への責任」を考える出発点。
原書の邦訳は岩波文庫・ちくま学芸文庫・中公クラシックスなど複数あるが、本書は「最初の地図」として機能する。
NHK100分de名著シリーズの設計通り、「現存在」「世界=内=存在」「被投性」「頽落」「死への先駆」といった訳語の壁を、日常の経験に翻訳しながら段階的に積み上げていく。原書の「未完」「難解」のハードルを下げる地図として最適。
ハイデガーが目指したのは抽象的な存在論ではなく、私たち自身の「現存在」の分析だった。本書は良心・決意・本来性といった概念を、現代の「世間の空気」「同調圧力」と対比しながら、生き方の問いとして読み直す。
ハイデガーが残した倫理学的課題を、教え子ハンナ・アーレント(『人間の条件』『全体主義の起源』)とハンス・ヨナス(『責任原理』)がどう批判的に乗り越えようとしたか。本書は両者の思索も参照することで、ハイデガーを「祭壇」にも「断罪」にも置かずに読む構えを示す。
講師の戸谷洋志はハンス・ヨナス研究で博士号を取得した倫理学者で、『恋愛の哲学』『友情を哲学する』『SNSの哲学』『生きることは頼ること』『責任と物語』など、現代社会を哲学の語彙で読み解く著作を多数発表してきた書き手。本書はその責任論的読解の地平から『存在と時間』を解読する。
原書の主要概念を、本書はやさしい日本語に置き換えながら導入していく。先に語の輪郭を掴んでおくと読みやすい。
Concept 01
ハイデガーの『存在と時間』が分析対象とする「人間」の呼び名。単なる主体や意識ではなく、「自分が存在することそのものを問題にできる存在」として規定される。
Concept 02
主観と客観を切り離した認識論ではなく、私たちはつねにすでに「世界の中で何かに関わって生きている」という事実から出発する。日常性の哲学的記述。
Concept 03
「ひと並み」の生き方に紛れ込み、自分自身として決意することから逃れる現存在のあり方。SNS時代の「空気」「同調圧力」を理解する古典的補助線。
Concept 04
「自分は死ぬ存在である」という事実を、不安を介して引き受けること。ここから初めて「本来的な自分」として時間を生きる可能性が開ける、という議論。
Concept 05
世人の中に紛れて生きる非本来的な状態と、自分自身として決意して生きる本来的な状態。倫理規範ではなく、現存在の二つの様態として記述される。
Concept 06
ハイデガーが踏み込まなかった「他者」の次元を、ハンナ・アーレント(複数性・活動)とハンス・ヨナス(責任原理)が引き継いで論じ直した。本書はそこまでを射程に入れる。
本書はEテレ「100分de名著」2022年4月放送回(全4回・各25分)の連動テキスト。各回25分を順に積み上げて『存在と時間』の全体像を描く。
「存在」への問いを、いまなぜ立て直すのか
25 min現存在(Dasein)と世界=内=存在 ― 道具・配慮・気遣いの構造
25 min世人 / 頽落 / 死への先駆 ― 本来性をめぐる時間論
25 minアーレントとヨナスへの継承 ― ハイデガーが残した倫理学的課題
25 min放送枠: Eテレ 月曜 22:25–22:50/再放送 火曜 17:30–17:55 ほか
※各回タイトルは本書の主題に基づく要約。番組公式の正式タイトルは NHK公式サイトをご確認ください。
サイト運営者による、一読者としての記録。書評ではなく、読後に残った感触を書き留めたもの。
A5判115頁で599円。新書未満の体裁で書店の雑誌棚に並ぶNHKテキストに、二十世紀最大の哲学書をおさめると言うのだから、開く前にはやや身構えていた。が、序章を読むと専門用語が一気に押し寄せる印象はなく、むしろ「世間」「空気」「決意」といった、日常で擦り切れてしまった日本語に、ハイデガーの語彙でゆっくり輪郭を引き直していく文体だった。表紙コピーの「『存在』への洞察が、『責任』を照らしだす」という一文が、後半に入って効いてくる構成になっている。
読み進めて最も刺さったのは、やはり「世人(das Man)」だった。「ひと並み」に紛れ込んで自分自身として決意することから逃れるあり方として記述されるこの概念は、SNSのタイムラインで誰かの発言に即時反応してしまうときの感触と、不気味なほど重なる。1927年のフライブルクで書かれた語が、2026年のスマートフォンの上に降りてきて、自分の指先の動きを見直させる瞬間がある。原書を遠ざけてきた間に取りこぼしていた語彙だった。
具体として一番残ったのは、最終回(第4回)でハイデガーの教え子ハンナ・アーレントとハンス・ヨナスが呼び戻される構成だった。ハイデガーのナチス擁護を回避せず、教え子たちが師をどう批判的に乗り越えようとしたかまで射程に入れる――講師の戸谷洋志が『生きることは頼ること』『責任と物語』で展開してきた「弱い責任」の哲学のルーツが、この115頁の最後の25分にぐっと立ち上がってくる読後感がある。一冊で完結する入門書としても、戸谷の責任論への前段としても、二重に効くつくりだった。
ハイデガーを神棚にも置かず、断罪一色にもしない。「現存在」の分析が手渡してくれる視野の広さと、ナチス擁護が突きつけてくる倫理学的な宿題を、両方とも手放さずに引き受ける姿勢。本書を貫く態度がこれだったし、読み終えたあとに一番残ったのもこれだった。
正直に書くと、115ページとは思えないほど読み応えがある。前半の世界=内=存在・道具的存在の導入は丁寧だが、第3回あたりで「不安」「死への先駆」「本来性/非本来性」が立て続けに出てくる箇所は、初学者が一気に読み切るには密度が高い。「100分」のうちのこの25分が一番厚い、と腹を括って臨むとよい。原書を読みたくなった場合は、岩波文庫の熊野純彦訳(全4巻)が現時点でいちばん通読の手応えがあると思う。
「世間の空気」と「自分の良心」のあいだで疲れた夜に、軽すぎず重すぎない厚みで手渡したい一冊。ハイデガーを学術的に研究したい人ではなく、現代の生活に効く哲学の語彙を一つずつ拾い直したい人にこそ、この115頁は刺さると思う。原書『存在と時間』の前段としても、戸谷洋志の責任論の前段としても、両側から有効な位置にある本だった。
― nia-project / 2026年4月 通読
『存在と時間』を岩波文庫・ちくま学芸文庫などで手にしたものの、序盤で挫折した経験のある人へ。100分の地図を持ってから原書に戻ると、視界が変わる。
「世間の空気」「同調圧力」「SNSの言葉」に疲れ、「本来的な自分」「決意」「良心」といった古い哲学の語彙が、いまどう響き直すのかに関心がある人へ。
ハンナ・アーレント(『人間の条件』『全体主義の起源』)、ハンス・ヨナス(『責任という原理』)を読んできた読者で、「彼らがハイデガーの何を批判的に継承したか」を整理したい人へ。
戸谷洋志の『生きることは頼ること』『責任と物語』を読み、「弱い責任」の哲学のルーツとしてのハイデガー読解を辿ってみたい読者へ。
2022年4月発売のNHKテキスト。紙書籍のみの刊行で、Kindle / 楽天Kobo の電子配信は2026年4月時点でなし。
Amazon
紙書籍(NHKテキスト・A5判)
599円(税込)
Amazonで購入するPrime対応/在庫変動あり
楽天ブックス
紙書籍
599円(税込)
楽天ブックスで購入する楽天ポイント対応
本書は2022年4月号のNHKテキストです。NHK出版 公式サイト・各書店店頭でも購入可能ですが、発売から年月が経過した号は在庫が不安定です。電子版での読書を希望する場合は、同シリーズの『別冊NHK100分de名著 集中講義 三大哲学書 カント/ヘーゲル/ハイデガー』(戸谷洋志ほか/2024年)が楽天Koboで配信されており、そちらが代替候補となります。
はい。NHK出版の公式紹介でも「専門用語は最小限に、人間一人ひとりの生き方という視点から解読していく」と明言されています。115ページ・全4回構成で、ハイデガーが生きた20世紀ドイツの状況、現存在・世界=内=存在・死への先駆など主要概念を順に整理しているため、原書を直接読む前の地図として機能します。
本書(2022年4月号テキスト本体)は紙のみの刊行で、Amazon Kindle・楽天Kobo いずれも電子書籍版は配信されていません(2026年4月時点)。同著者・戸谷洋志による派生書籍として『別冊NHK100分de名著 集中講義 三大哲学書』『まんが!100分de名著 ハイデガー 存在と時間』は楽天Koboで電子配信されています。
触れられています。NHK出版の公式紹介でも、ナチスを擁護したハイデガーが後世の哲学者に残した倫理学的課題を、教え子ハンナ・アーレントとハンス・ヨナスがどう受け止め批判的に読み直したかを参照しつつ、現代社会で「他者への責任」を引き受けることの意味を考える、と位置づけられています。
原書を読む際は、熊野純彦訳(岩波文庫・全4巻)、細谷貞雄訳(ちくま学芸文庫・上下巻)、原佑/渡邊二郎訳(中公クラシックス)が代表的な日本語訳です。いずれも『存在と時間』第一部の「未完」までを収めています。本書はこれら原書の前段として、現存在分析の見取り図を100分で得るための入門に位置づけられます。
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二十世紀最大の哲学書を、一人ひとりの生き方の問いとして読み直す。
全4回・100分・115頁・599円から始める、戸谷洋志のハイデガー入門。