鳥の鳴き声は、本当に「感情の発露」だけなのか
人間以外の動物の声は、これまで「うれしい・こわい・腹が立った」といった内的状態の漏れ出しだと長く想定されてきた。著者は、その仮説でほんとうに観察事実が説明し切れるのかを、シジュウカラの行動から問い直す。
SCIENCE ESSAY / 小学館 2025
シジュウカラ語を解き明かすまでの、
鳥愛あふれる日々。 ― 単行本 表紙オビ
古代ギリシャ以来、「言葉をもつのは人間だけ」と信じられてきた。その常識を、シジュウカラが20以上の単語を組み合わせて文を作っていることを世界で初めて解明した若き研究者がひっくり返す。動物言語学を創設した著者の、初の単著サイエンスエッセイ。河合隼雄学芸賞・新潮ドキュメント賞・書店員が選ぶノンフィクション大賞2025を三冠受賞、25万部突破。
「言葉を使うのは人間だけ」
― TVCM「トリリンガル」編コピー (小学館 公式)
って、人間だけが思ってる。
古代ギリシャから2000年以上更新されてこなかった「言葉は人間だけのもの」という前提を、20年の野外観察がどう書き換えていったのか。本書を読むと、自分の足元の鳴き声まで聴き直すことになる。
人間以外の動物の声は、これまで「うれしい・こわい・腹が立った」といった内的状態の漏れ出しだと長く想定されてきた。著者は、その仮説でほんとうに観察事実が説明し切れるのかを、シジュウカラの行動から問い直す。
シジュウカラは「ピーツピ(警戒せよ)」「ヂヂヂヂ(集まれ)」といった音を組み合わせて伝えている。順序を逆にすると相手は反応しない。本書は、文法の「語順性」が人間外で実証された経緯を一次資料の現場から描く。
動物が「言葉」をもつなら、私たちが動物に向ける倫理も研究もアップデートされる。著者が創設した「動物言語学(Animal Linguistics)」は、生態学・言語学・哲学の境界に置かれた新しい地図帳である。
論文ではなく単行本で、研究者ではなく一読者として読む価値が、この本にはある。
第13回河合隼雄学芸賞(2025年7月)、第24回新潮ドキュメント賞(2025年8月)、書店員が選ぶノンフィクション大賞2025 大賞(2025年10月)を相次いで受賞。発行部数は刊行から1年で25万部を突破し、続々重版が続いている(出典: 小学館公式特設サイト)。同年のノンフィクション枠でこれだけの賞を集めた本は珍しい。
論文ではなく、しかし単なる科学エッセイでもない。野外でシジュウカラを追いかけた20年の観察ノート、仮説と反証の往復、機材・季節・場所選びの試行錯誤が、読者を実験デザインの内側に立たせるかたちで描かれる。生命科学者・仲野徹氏は本書を「これまで読んだサイエンス本でベスト」と評している。
シジュウカラに「単語」と「語順性のある文法」を見出し、動物のコミュニケーション研究の枠組みそのものを「動物言語学(Animal Linguistics)」として再定義した著者の、初めての単著。共著(山極壽一氏との対談『動物たちは何をしゃべっているのか?』集英社)はあるが、自身の研究を一冊で語る本としては本書が最初。本人の言葉で読める一次資料的な意義がある。
「ダンゴムシやバッタ、クワガタ、ヤドカリ、カエル、ドジョウ、ナマズ。いろいろな生き物を捕まえては家に持ち帰り、プラケースや水槽で飼っていた」── 本書の冒頭近くに置かれた一節は、研究者の論文では出てこない種類の文体だ。専門研究と幼少期の好奇心が地続きで描かれることで、親子読書・進路選びの一冊としても機能する。
読み進める前に、用語の輪郭を掴んでおくと「研究の現場」のスケッチがいっそう立体的になる。
Concept 01
本書の主役となる小鳥。日本全国の公園・庭・里山で見られる留鳥で、胸の縦の黒帯と頭の黒い「キャップ」が特徴。著者が長野県軽井沢などで20年近く野外観察を続けてきた対象。
Concept 02
動物のコミュニケーションを「単語」「文法」「意味」の単位で解析する、著者が提唱した新しい学問領域。生態学・行動学と人間の言語学を接続するアプローチ。
Concept 03
シジュウカラがヘビなど特定の天敵を見つけたときに発する音。仲間に「警戒せよ」と意味を伝える「単語」として機能していることが行動実験から実証されている。
Concept 04
仲間に「集まれ」と呼びかけるためのコール。これを「ピーツピ」と組み合わせ、ある決まった語順で発することで「警戒しながら集まれ」という複合的な意味を伝えていることが明らかにされた。
Concept 05
「ピーツピ → ヂヂヂヂ」と「ヂヂヂヂ → ピーツピ」を聴かせると、シジュウカラは前者にだけ「警戒しつつ集合する」反応を示す。語順を逆転させると意味が壊れる ── 文法の最も基本的な性質「語順性」が、人間以外で初めて実証された。
Concept 06
録音したコールを野外でスピーカーから再生し、シジュウカラの反応を観察する手法。何が伝わっているか、何が伝わっていないかを「自然のなかの実験室」で切り分けるための、本書の中核的な研究手法。
小学館 公式特設サイトで公表されている主要な受賞・露出のうち、ノンフィクションの賞を中心に整理した。
第13回 河合隼雄学芸賞 受賞京都・ホテルオークラ京都にて授賞式
第24回 新潮ドキュメント賞 受賞新潮社主催のノンフィクション・ドキュメント部門賞
書店員が選ぶ ノンフィクション大賞 2025 大賞本の雑誌社 主催/全国書店員投票
BSテレ東「あの本、読みました?」第2回 特別賞・ノンフィクション賞テレビ番組による年間ベストブック企画
累計発行部数(続々重版中)出典: 小学館 公式特設サイト
サイト運営者による、一読者としての記録。書評ではなく、読後に残った感触を書き留めたもの。
四六判264ページ・1,870円。装丁を開く前は、受賞三冠とTVCMで話題が先行している分、研究者の自伝寄りか啓発書寄りに振れているのではと身構えていた。が、序章を読み始めるとそのどちらでもなく、「ダンゴムシやバッタ、クワガタ、ヤドカリ、カエル、ドジョウ、ナマズ。いろいろな生き物を捕まえては家に持ち帰り」と、いきなり子ども時代の生き物観察の手触りから入ってくる。論文的に整理された科学解説でも、研究者の半生を回顧する自伝でもない。「現在進行形で野外を歩いている観察ノートをそのまま読まされている」感触に近かった。
読み進めて最も刺さったのは、「語順性(コンポジショナル・シンタクス)」の章だった。「ピーツピ → ヂヂヂヂ」を聞かせると警戒しつつ集合するが、「ヂヂヂヂ → ピーツピ」と逆順で聞かせるとシジュウカラはほとんど反応しない ── この一点を野外のスピーカー実験で切り出してくる手つきが、教科書的な「動物にも言葉がある」という命題を、急に手触りのある実験事実に変える。文法という人間中心主義の最後の砦のひとつが、軽井沢の冬の森でかすかに崩れていく場面に立ち会わされる。
具体として一番残ったのは、研究フィールドである軽井沢の山荘付近の描写だった。観光地としての軽井沢ではなく、「シジュウカラがどの木の高さに巣をかけ、ヘビが何月にどう登ってくるか」という、地理ではなく生態的な縦軸で描かれる軽井沢が出てくる。研究者にとっての土地はこういうふうに見えているのか、という発見があった。同じ場所でも、観察の蓄積年数で世界の解像度が変わる ── という当たり前のことを、ページの厚みで実感させてくれる。
シジュウカラを神秘化もしないし、人間の言語と並べて過大評価もしない。「これは単語として機能しているか」「いや、機能していないかもしれない」を実験デザインの粒度で淡々と切り分けていく態度。本書を貫いていたのはこれだったし、読み終えたあとに一番残ったのもこれだった。
正直に書くと、エッセイとしての軽さと研究の精度は両立しているが、第3章前後でプレイバック実験の手続きが詳しく描かれる箇所は、生物学・行動学に馴染みがない読者だと一気には読みにくいかもしれない。「ここは少し時間をかける章」と腹を括って読むとよい。逆に言えば、ここを飛ばすと後半の「動物言語学」というラベル付けの意義が浅くなる。一気読みより、夜に1章ずつ進めるくらいが心地よい本だった。
朝の通勤前、ベランダの鳥の声が「今日は警戒系のコールが多い」「これは集合系」と聴き分けたくなる ── そういう、読書体験が日常の感覚器官を一段アップデートしてしまう類の本だった。動物行動学・鳥類学に馴染みのない読者ほど読後の世界の解像度が上がる。研究そのものに興味がない人にも、自分の住んでいる町が少し違って見える一冊として手渡したい。
― nia-project / 2026年4月 通読
『ソロモンの指環』(コンラート・ローレンツ)、『ご冗談でしょう、ファインマンさん』、福岡伸一『生物と無生物のあいだ』のような、研究者本人が語る一級のサイエンスエッセイが好きな読者へ。
「言葉は人間だけのもの」という前提に違和感を覚えてきた人へ。本書は哲学・言語学・倫理学にも飛び火する射程をもっている。
子どもと一緒に読める科学読み物を探している保護者・先生へ。生き物観察に夢中だった子ども時代のエピソードに、親子で共感しながら読み進められる(本書帯コピーより)。
受賞三冠の話題書だから読んでおきたい、という単純で正当な理由で手にとった人へ。読後、近所の公園のシジュウカラの声に確実に耳が反応するようになる一冊。
2025年1月23日発売の小学館・四六判単行本。紙書籍・Kindle・楽天Koboの3形態すべてが配信中。
Amazon
紙書籍(四六判・264頁)
1,870円(税込)
Amazonで購入するPrime対応/続々重版中
Amazon Kindle
電子書籍(Kindle版)
電子版(価格は販売ページ参照)
Kindle版で購入する即時配信/読み放題対象は要確認
楽天ブックス
紙書籍
1,870円(税込)
楽天ブックスで購入する楽天ポイント対応
楽天Kobo
電子書籍(Kobo版)
電子版(価格は販売ページ参照)
楽天Koboで購入する楽天ポイント対応/即時ダウンロード
本書は2025年1月発売の小学館 単行本です。書店員が選ぶノンフィクション大賞2025 大賞、第13回河合隼雄学芸賞、第24回新潮ドキュメント賞をトリプル受賞しており、書店店頭でも入手しやすい一方、続々重版が続く話題書のため在庫変動があります。電子で即時に読みたい場合はKindle・Kobo版が便利です。
小学館の公式紹介でも「鳥愛あふれる日々をつづったユーモア科学エッセイ」と位置づけられており、専門書ではなくサイエンスエッセイです。シジュウカラに20以上の単語と文法を発見した著者(東京大学准教授・鈴木俊貴)の研究の歩み・観察日記・幼少期のエピソードが、論文の難しさを抑えた平易な日本語で書かれています。一般読者・親子読書にも向く一冊で、生命科学者・仲野徹氏は「これまで読んだサイエンス本でベスト」と評しています。
はい、両方あります。Amazon Kindle版は2025年1月23日に紙書籍と同時配信、楽天Kobo版も配信されており、当ページから両方のCTAでアクセスできます。紙書籍は四六判・264ページの単行本(1,870円・税込)で、書影は鳥のイラストをあしらったロイヤルブルーの装丁です。
本書は刊行から約1年で主要なノンフィクション系の賞を相次いで受賞しています。2025年7月に第13回河合隼雄学芸賞、2025年8月に第24回新潮ドキュメント賞、2025年10月に「書店員が選ぶノンフィクション大賞2025」大賞、2026年1月にはBSテレ東「あの本、読みました?」特別賞・ノンフィクション賞を受賞しました(出典: 小学館公式特設サイト)。発行部数は累計25万部を突破しています。
1983年東京都生まれ、東京大学准教授(動物言語学)。京都大学白眉センター特定助教などを経て現職。シジュウカラの鳴き声を20年近く野外で観察し、「ピーツピ(警戒)」「ヂヂヂヂ(集まれ)」など特定の単語があり、それらが特定の語順で組み合わされて文として機能することを世界で初めて実証し、「動物言語学」という新しい学問を提唱した研究者です。文部科学大臣表彰若手科学者賞、日本生態学会宮地賞、日本動物行動学会賞、World OMOSIROI Award など受賞多数。本書は初の単著で、共著には『動物たちは何をしゃべっているのか?』(集英社/山極壽一氏との対談本)があります。
当ページのCTAから Amazon(紙/Kindle)・楽天ブックス(紙)・楽天Kobo(電子)で購入できます。書店員大賞・河合隼雄学芸賞・新潮ドキュメント賞をトリプル受賞した話題書のため書店店頭でも入手しやすく、続々重版がかかっています。電子で読みたい場合はKindle版・Kobo版が即時購入・即時読了可能です。
河合隼雄学芸賞・新潮ドキュメント賞・書店員が選ぶノンフィクション大賞2025、三冠受賞。
25万部突破の話題書で、シジュウカラ語の文法に出会う。